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『ウサギはなぜ嘘を許せないのか?』 マリアン・M・ジェニングス 山田真哉(監修)


ウサギはなぜ嘘を許せないのか?.jpg




最近よく聞く言葉に “コンプライアンス” というのがあります。私も時々、どういう意味かと生徒たちから聞かれることがあります。普通は “法令遵守” と訳されます。特に企業活動において、法律を守るという、実はごく当たり前のことですね。


当たり前とはいうものの、現実は、雪印三菱自動車ライブドアなど大きな問題を起こす企業は後を絶ちません。厳しい競争の中で利益の最大化を至上命題とする企業の現場にとって、バレなければ良いのだという誘惑に勝つのは難しいようです。


アメリカの状況はさらに深刻で、ワールドコムエンロンといった超巨大企業の粉飾決算が明るみに出て、倒産までしています。経済がグローバル化している中での大企業の経営破綻は、その影響が世界経済にまで及びかねないため、コンプライアンスがあらためて問われているということでしょう。


企業を取り締まる法律は商法、独占禁止法、証券取引法、特許法、電子商取引法などなどいくらでもありますが、そういう難しいものに違反しているかどうかというテクニカルな議論とは別に、そもそも企業人のモラルの低下を問題にすることもあります。(モラルハザードという言葉が使われますが、実は意味が違います)


本書は、Library Journal の“全米ベストビジネスブック” というのに選定されたそうですが、実践的なビジネス書でありながらも、その内容はモラルを説く現代版おとぎ話なのです。

あるいは “ビジネス童話” とでも呼びたくなるような内容で、非常にユニークかつ、おもしろい一冊です。


どこの国のいつの時代の文化でも “正直さ” ということに価値が置かれていると思いますが、逆に言えば、それほどまでに人間は、放っておけば、自分の利益を最大化するためには平気でうそをついてしまう、ごまかしてしまうということでしょう。

少し広い視野で眺めると、ある社会でそれが横行すれば、結局、社会全体が不利益を被ってしまう。本来はそういうことを理解している大人たちが若者を教育すべきなのでしょうが、その大人たちも社会全体より自分優先で、あやしくなっているのですね。

ドラフトの裏金問題、落語家の巨額脱税!まで、あげればきりがない。

本書では、大人ではなく、身長190cmの大ウサギの「アリ(アリストテレスの略)」 が主人公の少年エドにつきまとって、教育するという物語なのです。


■~■ストーリー



エドが8歳、お母さんの運転する車に乗っている時に、突如として現われた大ウサギのアリ。お母さんが教会へ急ぐので、スピード違反をしているのですが、それを注意するようにエドに迫ったのです。お母さんにはアリの姿は見えません。

それ以降、エドのお母さんが何かずるいことをするたびにアリがエドの前に姿を見せるようになります。母親に注意しないとアリはエドを手や足で攻撃してきます。

人間誰でもやってしまう、ちょっとしたごまかしや他愛のないうそ。エドも大学生になって、そういうことをする仲間につられそうになると、やはりアリが現われて、エドを優しく蹴飛ばしながら(笑)いさめます。まじめにやっていたら損だと言ってもアリはそんなことを意に介しません。

エドの仲間たちが、テストや就職で“うまくやっている” のと対照的に、真っ正直に生きてきたエドには、いつも割りに合わない結果がついて回ります。もうその頃にはアリに文句を言うこともありません。

その正直な行動と性格ゆえに、“うまい話し” も来ない、仕事でもごまかしができないために、まわりから疎んじられ長続きしません。しかし、やがて人生も後半に入った頃、逆にその正直さゆえ、仕事でもプライベートでも大きなチャンスが訪れ、成功をつかみます。




姿を現すのが、ウサギ。最後に成功するエドの会社の名前が “トータス”エンタープライズ、そうカメです。つまりウサギとカメの話しがモチーフになっているわけです。このストーリー自体もそうですが、この本がアメリカで売れているという事実がとにかく興味深く、解説者もそれを指摘しています。


(実はですね、日本の大学受験の英語の例文でよく出ていた、

Honesty will pay in the long run.” (正直は長い目で見れば得だ)というのが、最近は

Honesty does not always pay.” (正直が常に得とは限らない) 

になっていて、あれ?おかしいなぁ~と気になっていたところなのです(笑)。ほんとに。)


生き馬の目を抜くアメリカのビジネス界で、なぜ今本書が尊重されるのか、山田氏は、結局、価値観(問題意識)は日米でそれほどかわらないと述べています。

これほどの高度情報化社会、複雑化した法律・経済制度を持つ現代ですから、コンプライアンス違反かどうかという問題も複雑、高度になっているでしょうし、ちょっとした違反がこれまで以上に企業の存続さえも危うくするという危機感があるのではないでしょうか。


物語の部分だけなら、本当に短時間で読めますし、仕事が忙しい人ほど、ぜひ一度手に取ってみて下さい。


ただ、難点は物語の途中途中に、コンプライアンスに関するコラムが10本くらい入るのですが、これがはっきり言ってじゃまでした。私の場合、気になって読んでしまうのですが、そうすると肝心のストーリーが中断してしまいます(笑)。後からまとめて読めば良いでしょう。

もう一点。本書は『さおだけやはなぜ潰れないのか』 の著者、山田真哉氏(拙ブログでも『女子大生会計士の事件簿』を取り上げました)が、まえがきも解説(あとがき)も担当しています。

山田氏の文章自体はわかりやすく、内容にまったく不満はありませんが、こういう独特な本だけに、ぜひ著者自身による解説や出版に関する意図などを知りたいと思ったのですが、本書にはそれがありません。きっと著者はこの風変わりな物語を書いた意図を強く主張したいはずなのに…。


そこで原書を購入して確認してみました。予想通り、小説の途中なんかにコラムも入っていませんし、ちゃんと長いまえがきと解説、あとがきなどがありました。しかも最後に、コラムがまとめてあり、それを小説で出てきたアリに置き換えて、解説が入っています。

はっきり申し上げて、原書の構成の方がずっとすばらしいと思います。従ってこちらもお薦めです。


 ↓ 原題はストレートに 『A BUSINESS TALE』 (144P:1765円)
A .jpg



おそらく原書に出ている例が、エンロンワールドコムといったアメリカ企業だったので、日本の読者にわかりにくという配慮から、日本版ではそれのかわりに、ライブドアなど国内企業による不祥事の一覧を付けたのでしょう。(これがコンプライアンス違反だったらシャレでは済まされない(笑)。)


それはともかく、本当は訳知り顔の大人たちに薦めるよりも、これからビジネス界に入る人、就職前の高校生・大学生にぜひ読んでもらいたい一冊です。



P.S. 街中の案山子さんが本書をご紹介して下さいました。私の故郷の近くに今、お住まいのようなので、こちらが一方的に親近感をもっております(笑)。ありがとうございました。




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『ウサギはなぜ嘘を許せないのか?』 マリアン・M・ジェニングス(著) 山田真哉(監修)
アスコム:159P:1029円




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