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『黒字亡国ー対米黒字が日本経済を殺す』 三國陽夫



 


黒字亡国.jpg



日本の三大証券グループの一つ、日興コーディアル証券がみずほグループではなく、シティバンクグループの子会社になるというニュースが流れました。TOBを実施するそうですね。驚きました。


私は大学の友人が数人、日興証券に就職しましたので、何となく他人事のように思われず、これが良いニュースか悪いニュースか正直判断できませんが、不正会計で上場廃止に追い込まれても、かつての山一証券のようにはならないようだという安心感はあります。



日銀のわずかな利上げが話題になった直後の、上海の安から始まったここ数日の世界同時安と、急激な円高、そしていざなぎ景気を超えた、景気は回復したと言われながら、個人消費が伸びずに格差が問題となります。日本経済、どうなっているんでしょうか。


GDPは成長していて、絶好調らしいのですが、よく言われるように庶民には実感がない、デフレも明確には脱却し切れていない状態は果たしてこれまでの経済学で説明できるのでしょうか。



本書は意外な指摘をします。今の経済構造を見ていくと、日本の貿易黒字こそが、国内消費が伸びない、デフレが克服できない元凶であるというのです。

普通どんな会社でも、国でも、あるいは家庭でも赤字よりは黒字が良いに決まっていますが、今の日本にはそれが当てはまらないということなのです。



今、日本の大手企業は確かに業績を伸ばしていますが、それは国内での販売(消費)が好調なわけではなく、相変わらず、自動車や家電製品など、輸出企業の業績が著しく伸びているわけです。アメリカ・中国のバブルのおかげですね。


通常、取引がドルで行われますから、日本国内には黒字によって巨額のドルが入ってくるわけですが、そのドルは日本の企業の支払いには使えませんので、銀行などに入ります。その巨額のドルを円に変えてしまえば、日本は大金持ちになるはずです。

その金が日本国内で消費されたり、設備投資に向けられればデフレもなくなり経済は好転するはずですがそれをしません。国内はすでに生産力過剰のようで、使い道が限られているようです。



それで、その余ったドルはドルのままアメリカへ投資されるというのです。国債を買ったりするわけです。ドルは金利も高く魅力的に見えますね、確かに。日本ではようやくゼロ金利は解除されたものの、依然として日米の金利差は歴然です。また、輸出立国日本は円安を望みますが、巨額のドルを売って円を買えば、円高ドル安を誘発してしまいますから、積極的に円を買おうとはしない。


アメリカから見ますと、日本に黒字のドルがたまればたまるほど、自分が払ったドルが返ってくる訳ですから、むしろそれを望みます。そりゃそうですね、自分がものを買えば買っただけ、ものと一緒にその金がいくらでもまた戻ってくる(借りられる)わけです。


その金でさらに設備投資をしたり、研究開発をしたりできますから経済の規模は赤字のまま拡大する。戦費の調達にだってなっているでしょう。筆者が、調べてみるとかつての宗主国イギリスとその植民地インドの関係と同じだと指摘します。


アメリカがあれほどの巨額の財政赤字、貿易赤字を出しながら、ドル高を放置いやむしろ維持しつつ、相変わらず好景気が続き、逆に日本はこれほど黒字を積み上げながらも、デフレが収まらないのはそのせいだというしくみが理解できました。



つまりまじめな労働者である、日本人の夫が、かせげばかせぐほど、悪妻であるアメリカはクレジットカードで多額の買い物をし、豊かになる。夫はいつまでたっても自分で消費をすることなく、豊かさが感じられないという構図です(笑)。


ただ、悪いのは妻というより夫ですね。自分で使わないで、妻に買い物をさせるわけですから。妻は夫がかせぐのに異論をはさむはずがありません。アメリカもしたたかですが、日本の経済政策そのものが輸出に頼りすぎているために起こっている現象だと、筆者は分析します。


なぜそうなってしまうのかをニクソンショックなど、国際的な通貨の歴史をひも解きながら、順を追って説明してくれます。


今回の暴落場面では円キャリートレードも話題になりました。バブル崩壊時のハゲタカファンドや金融派生商品のデリバティブなど、いろいろありましたが、残念ながら、どうも金融や経済政策ではアメリカなどの方が一枚上手のようです。



基軸通貨としての強みを発揮しているだけにとどまらず、日本にアメリカ国債を買わせてしまう政治力など、そう簡単に日本がこの状態から抜け出せそうにないこともわかりますし、日本自体がむしろそれを選択していることも気になります。日本の当局は、“貿易黒字が悪”だと気付いているのか、気付いていても他に選択がないのか。


私もこれまで単純に、日本の外貨準備高(ドルの資産)が増えれば増えるほど、貯金と一緒で良いことだと認識していましたが、円安を望む日銀の巨額な円売りドル買い介入の結果で膨れ上がっただけで、本書を読んだ後は、この大量のドルをいったいどうやって処分していくのか不安になりました。


何よりもまず、日本は一刻も早く貿易黒字を減らし、国内の需要を喚起するような政策に変更し、デフレを退治するべきだという主張です。内需主導のインフレになってやっと経済が健全化するということです。

今回の暴落ではありませんが、バブルはいつかはじけます。どこかで調整が必要で、放置すれば、やがてアメリカの赤字を日本が埋められなくなります。


資金供給をストップされたアメリカが消費を抑えるようになれば、唯一好調だった日本の輸出企業の業績も悪化。再び、日本はデフレ不況に陥りかねませんね。銀行の企業に対する不良債権は処理されたようですが、アメリカ国債自体が実質的に回収不能の不良債権だったらぞっとします。回収する政治的決断ができるとは思えませんので、今のうちから少しずつ健全化に向けて動いて欲しいと感じます。


こうした経済の問題を、歴史や国民性や政治力といった観点からも分析しており、非常に勉強になりました。数式は一切出てきませんので、経済学部に進学が決まっている高校生が、入学前に読むには 最適かもしれません。経済に関心のある方にも広くお薦めできる一冊だと思います。



 P.S. ちょうどタイミング良く、今日のニュースで外貨準備高が過去最高の9000億ドルを越えたとありました。良いニュースのように伝えられていますが…。9000億ドルって、100兆円くらい!?確かに円に代えて使った方が良さそうです(笑)。日本全体の国家予算、一般会計って80兆くらいでしょ。そんなに…?




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『黒字亡国ー対米黒字が日本経済を殺す』 三國陽夫
文藝春秋:242P:788円


 

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